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手紙~天国のあなたへ~

第2章 雪の記憶

 千福は主に小間物を扱っている。朝鮮国内だけでなく、遠くははるばる清国にまで渡って様々な舶来品を持ち帰り、法外な高値で都の両班の奥方相手に売りつけている。やはり、金持ちの奥方は、きらびやかな装飾品に眼がなく、珍しい玉の髪飾りや腕輪、指輪になると、金に糸目はつけずに買い上げてくれる。
 千福の顧客は皆、慎ましい暮らしを営む庶民ではなく、裕福な両班、商人たち上流階級の人々であった。
 その一人娘春陽(ボムヤン)はこれまた、我が儘のし放題、甘やかされて育ったため、ろくに父である千福の命さえ聞こうとしない始末だ。
 この女中は主にお嬢さまである春陽に仕えているのだが、いつも春陽の気紛れには手を焼いている。たった今、帰っていった少女崔(チェ)留花はこの屋敷に出入りする針(しん)女(みよう)(お針子)で、春陽は留花の仕立てを殊の外気に入っており、留花が仕立てた衣服でなければ、袖を通そうともしない。

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