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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「侮らないで下さい。このように貧しく賤しい身にはございますが、人としての誇りはございます。初対面も同然のお方に、このような途方もないお金をすんなりと頂くわけには―たとえ、あなたさまは行きずりの者に施しをしたおつもりでも、私は受け取るわけにはゆかないのです」
 留花は馬鹿にされたと、小さな顔を屈辱のあまり真っ赤に染めている。
 両班はしばし、呆気に取られたように留花を見つめていた。ややあって、ホウと小さな息を吐き出した。
「済まぬ。そなたを傷つけるつもりはなかった」
 留花はハッと男の顔を見やった。また、あの瞳だ―、ふっと翳りを帯び、哀しげな光がその眼の底で閃いた。
 この男(ひと)は本当に不思議だ。両班ともなれば、留花のように常民(サンミン)相手にはふんぞり返って偉そうにしているのが当たり前の世の中なのに、あっさりと謝ってくる。

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