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手紙~天国のあなたへ~

第2章 雪の記憶

 が、気随気儘な春陽は少しでも気に入らないところがあれば、
―このチマは丈が少し短すぎるわ。直させて。
 と、平然と突き返すものだから、留花はその度に何度でも仕立て直しをする羽目になった。
 まるで煌めく虹を糸にして織り出したかのように美しい布地―、小間物の他に時には布を商う(千福は呉服商ではないが、清国からは装身具だけでなく、眼にも彩な絹布をも携えて帰国した)父親を持つ春陽には見慣れた当たり前のものであっても、留花には到底手の届かぬ高価なものだ。
 その光沢のある布地をせっせと春陽のチマ・チョゴリに仕立てるのが留花の役目である。年頃の娘なら、他人の身に纏う服ではなくて、自分でこそ着てみたいと思うだろうのに、留花は春陽の無理難題にいちいち腹を立てるわけでもなく黙々と仕事をこなす。
 留花は評判の孝行娘だった。留花が春陽の我がままに堪えている理由の一つには、家で彼女の帰りを待つ年老いた祖母の存在があった。

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