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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「お止め下さい。旦那(ナー)さま(リ)にそのようなことをして頂いては、私が困ります」
 留花が慌てて止めようとすると、男は居住まいを元どおりに正し、穏やかに訊ねた。
「何故? 目上の人はたとえ身分の違いがどうあろうと、敬うべきものではないのか? たとえ他の人がどのように思おうと、私は私の信念に従って行動する。お祖母さまにもきちんとしたご挨拶をすべきだと思ったから、そうしたまでのことだよ」
 留花は何も返すべき言葉がなかった。
 男の言い分はもっともではあった。身分の違いはどうあれ、目上の人は敬うべきもの。
 そのひと言は、留花の心を烈しく揺さぶった。たとえ相手が常民であろうと、潔く自らの非を認め、寝床の老婆にも恭しく拝礼する男。およそ両班らしからぬこの男に強く惹きつけられずにはいられなかった。
 祖母は初め、男の顔を食い入るように見つめていた。祖母の占いは主に〝観相〟である。つまり、顔を見て、その人の未来を占うのだ。

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