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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

 粗末な民家が物珍しいのか、男はキョロキョロと家の中を興味深そうに見回している。本当に子どものように純粋な好奇心丸見えの仕種なので、詮索されているとかいうような厭な感じはしない。
 留花はその間に窓を細く開け、外の様子を見た。雪は降り止むどころか、更に本降りになってきたらしい。今日の雪はこの間のたっぷりとした牡丹雪と違って、粉雪のようだ。
 風に舞い狂う小さな白い切片は、春に舞い散る桜の花びらを思わせる。
「綺麗」
 思わず呟くと、いつしか背後に男が佇んでいた。
「確かに美しいものだ」
 男の吐息がかすかに耳朶をかすめた。
 男との距離があまりに近すぎる気がして、留花は狼狽え、男から離れた。
「この分では、当分止みそうにありませんね。今、温かいお湯でもお持ちします」
 貧しい庶民の家庭では、お茶など滅多に呑めはしない。厨房で急いで湯を沸かして戻ってくると、男は眼を閉じて物想いに耽っている風情であった。

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