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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「そうか、女郎花。可憐な彼(か)の花であれば、留花にはふさわしかろう」
 男の優しい声音には深い労りが滲んでいて、留花の涙はその声を耳にしている中に自然と止まった。
「そういえば、旦那さまは雪がお好きだとおっしゃっていましたが、その理由をお訊きしてもよろしいですか?」
 雪降りの日は祖母の持病の痛風が余計に悪化するから厭だ―と、留花が告げた時、この男は反対に雪が好きだと言った。そのことを思い出したのだ。
 男がフッと笑った。
「その〝旦那さま〟と呼ぶのは止してくれないか。私には〝愃(カン)〟という名がある。どうせ呼ぶなら、カンと呼んで欲しい」
「判りました、―では、愃さま。雪がお好きだというその理由を教えて下さいませ」
「判った」
 愃と自ら名乗った男は、その話をすることが嬉しくてたまらないといった風に見える。何かをするのも心から歓んで―そうしたいからしているといったように見え、気持ちの良い男であった。

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