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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「後にも先にも、父上が私に心からの笑顔を見せて下さったのは、あの日だけだ。留花、私は時々、とても空しくなってしまう。自分を初め、私を取り巻くすべてのものが空しくてたまらなくなる。何もかも父上に決められた人生、父の教えと信条を我が物とし、父の決めたとおりの道を歩まねばならぬ。普段は心を殺して何とか父の期待どおりふるまってはいるが、時々、大声を上げて叫び出したい衝動に駆られるのだ。私はここにいる、本当の私は父上とは違う考え方をし、生き方を望んでいると、叫びながら走り回りたいと思うときがある」
「愃さま―」
 余計なことではあると判ってはいても、留花は言わずにはいられなかった。そのときの愃があまりにも哀しげで、見ていられなかったからだ。
「でも、愃さまにはお母さまがいらっしゃるのでは?」

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