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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

 愃はゆっくりと首を振る。その端整な面には諦めの滲んだ微笑がひろがっていた。
「私の生母は正妻ではない。この国では身分の上下に関わりなく、嫡出ではない子ども、つまり庶子は冷遇されるものと決まっているだろう? 幸か不幸か、正妻には実子がおらず、私は跡継に立てられたし、正妻は私を本当の息子のように可愛がってくれた。しかし、つくづく私は運がないのだろう。私を愛おしんでくれた方は若くして亡くなれ、父は若い後妻を迎えた。新しい正妻は私を仇のように憎んでおり、生母は側室ゆえに私を庇いたくとも表立って庇うことはできない立場だ」
「―そんな」
 留花は絶句した。
 留花のような庶民では到底、想像も及ばないような世界、常識の範疇をはるかに越えている。
 両班の家門では当主の座や権力をめぐって、しばしばそういった血族間の諍いが起こるものらしいけれど、血の繋がらない間柄ならともかくとして、実の父子の間には庶子であろうが、嫡出子であろうが、そのようなことで感情に違いがあるものなのだろうか?

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