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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「留花、今日はこの間のように私が触れても怒らないのか?」
 揶揄するような愃の声に、留花はハッと我に返る。慌てて愃の腕から身を離す。
 留花は耳まで真っ赤になっていた。
「愃さまの意地悪。もう、知りません」
 愃が嬉しげに声を上げて笑う。その屈託ない笑顔は、つい今し方、昏(くら)い表情で生い立ちを語っていた彼とは別人のような、年相応の晴れやかなものだ。
 恐らく本来の愃は、朗らかで闊達なのだろう。しかし、父やなさぬ仲の母との軋轢が彼の生来の伸びやかな人柄を歪めてしまっている。だから、愃は、拭いがたい孤独をいつもその瞳に宿らせているのだ。
 それからしばらくして、雪が小降りになった頃合いを見計らって、愃は帰っていった。
 もう二度と、逢うこともないだろう。
 留花は哀しい気持ちで、降り止まぬ雪の向こうに消える男の背を見送った。
 出入り口の扉を閉めて戻ってくると、仮睡から醒めたのか、祖母が眼を開き天井を見つめていた。

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