
手紙~天国のあなたへ~
第3章 血に濡れた鳳凰
「―帰ったのか?」
誰がとは言わずとも、この場合、愃であるのは判る。留花が頷くのを見もせずに、香順は依然として天井を睨み据えながら言った。
「あの男は駄目だ」
え、と、留花は眼をまたたかせる。
「なに、お婆ちゃん。何が駄目なの?」
「先刻の男だ。あの人とこれ以上、拘わってはいけない。お前が不幸になるだけだ」
「何を突然、言い出すかと思ったら。お婆ちゃん、あの方は本当に偶然、通りすがりで知り合っただけの人なのよ? 三日前、私がもう少しで柳家の奥さまから頂いた仕立賃を掏摸に根こそぎ持っていかれそうになっていた時、助けて下さった恩人なの。別にそれ以上の拘わりがあるわけでもないのに」
「フン、そんな話、お前はちっともしなかったじゃないか」
香順が睨(ね)めつけると、留花は居心地が悪くて、視線を逸らしてしまう。
誰がとは言わずとも、この場合、愃であるのは判る。留花が頷くのを見もせずに、香順は依然として天井を睨み据えながら言った。
「あの男は駄目だ」
え、と、留花は眼をまたたかせる。
「なに、お婆ちゃん。何が駄目なの?」
「先刻の男だ。あの人とこれ以上、拘わってはいけない。お前が不幸になるだけだ」
「何を突然、言い出すかと思ったら。お婆ちゃん、あの方は本当に偶然、通りすがりで知り合っただけの人なのよ? 三日前、私がもう少しで柳家の奥さまから頂いた仕立賃を掏摸に根こそぎ持っていかれそうになっていた時、助けて下さった恩人なの。別にそれ以上の拘わりがあるわけでもないのに」
「フン、そんな話、お前はちっともしなかったじゃないか」
香順が睨(ね)めつけると、留花は居心地が悪くて、視線を逸らしてしまう。
