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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

 香順は一旦は開いていた眼を瞑った。これ以上は話したくないと言いたげに背を向ける。いつもなら祖母が話し疲れたのだと思いやり、そっとしておくのだが、このときだけは違った。
 留花は素早く回り込んで、枕許に座り、祖母の顔を覗き込む。
「ね、お願い」
 留花の声を合図とするかのように、香順が突如として眼を開けた。しばらく天井を睨みつけている。カっと見開いた双眸は生気を取り戻し、〝占い婆申香順〟の顔をすっかり取り戻している。
 しばらく沈黙が続き、やがて、香順は聞こえよがしに盛大な溜め息をついて見せた。 
「ああ、本当に愚かな子だ。どうして、自分から嵐の真っ只中に飛び込んでゆこうとするのかねえ。―お前、惚れたのかい?」
 今度も〝誰が?〟とは訊かなかったけれど、留花が惚れた相手が愃であることは香順はもう先刻、承知なのだ。

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