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手紙~天国のあなたへ~

第3章 血に濡れた鳳凰 

「あのお人は礼儀をわきまえておる。襤褸を纏ったこの老婆にも礼を尽くし挨拶をなさった。両班が我ら常民に対して、拝礼するなど常識では考えられぬことだ。人柄としても、申し分なきお方であろう。留花、お前は、彼(か)のお方の漂わせるただならぬものに気付かなかったのか?」
 いつしか愃への呼び方が〝あの男〟から〝あのお方〟と変わっている。
 留花は小さく息を呑んだ。
「確かに、普通の人とは違う感じはしたわ。何ていったら良いのか、圧倒的な存在感とでも言えるかしら。あの方の雰囲気そのものは、春風のようにやわらかで温かいのに、真正面から向き合うと、思わずひれ伏してしまいそうになるというか―」
 香順は幾度も頷いた。
「さもあらん。あの御仁は類稀な相を持っている。これまで数え切れぬ人の観相を行ってきたが、あのような貴人に出逢うたのは初めてだ。あのお方を見ている中(うち)に、まずいちばんに浮かんだのが大空を飛んでいる鳳凰じゃった」
 その言葉に、留花は眼を瞠った。

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