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手紙~天国のあなたへ~

第2章 雪の記憶

 今月の下旬に礼曹判書の屋敷で行われる宴は大がかりなものではなく内輪のものだが、前途有望で次代の政界を担うと目されている一人息子も出席するというので、春陽は張り切っていた。
 実際のところ、両班家の淑やかで美しい令嬢を見慣れている若者が幾ら豪商の娘とはいえ、垢抜けない春陽に眼を止めるとも思えない。それでも春陽は何とか若さまに近づこうと必死で、自分に似合っているかどうかろくに考えもせず、七色に光り輝くチマ・チョゴリを仕立てさせた。
 今日、留花が持参したあの晴れ着を着てゆくつもりなのは丸判りではあるが、正直言って、色の浅黒い春陽にあんな淡い色合いは気の毒なくらい似合わない。膚が透き通るように白く肌理のこまやかな留花が身に纏えば。さぞ美しさが際立つであろうに。
 当人の春陽を初め、父の千福、母の蔡(チェ)京(ギヨン)三人ともに、あの格好が春陽にこれ以上はないというほど似合っていると思い込んでいるのだから、尚更、滑稽には違いない。それにしても、今日はやけに冷えると思ったら、とうとう降り出したようだ。

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