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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

 それは食事の最中も続いた。朝飯といっても、貧しい庶民の朝は、たいしたものが食卓に並ぶわけではない。具がわずかに入った汁物と炊きあがったばかりの飯を器に盛り、小卓に乗せて運ぶ。香順と留花が使っていた室が寝室にもなり、居間にもなるのだ。
 そこで愃と向かい合って食事を取る。
 意識するまいとしても、どうしても愃の骨太の指先に眼がいってしまうのだ。
 昨夜は、あの指先が自分の素膚を這い回り、留花さえ触ったことのない秘められた箇所をまさぐった。自分があんなにも感じやすく、指先で触れられただけで烈しく反応してしまうのは恥ずかしくもあったが、どことなく嬉しい発見でもあった。
 思わず愃の指を見つめてしまっていたことに気づき、素花はハッと現に返った。
―私ったら、いつから、こんなにはしたなくなってしまったの?
 一人で狼狽え、両手で熱くなった頬を押さえる。

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