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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

 手にした飯粒を愃は躊躇う様子もなく自分の口に放り込む。
「いやだ、私ったら。ご飯粒を顔につけたまま食事をしていたのですか?」
 留花が悲鳴のような声を上げた。
「うん、頬にご飯粒をくっつけてる留花もなかなか可愛かった。滅多に見られない光景だからね」
 愃が笑いながら言うので、留花は軽く睨んだ。
「愃さまの意地悪!」
「確か、以前もそんなことを言われたような気がするが」
 確か十日ほど前、愃が父親との確執や複雑な生い立ちについて語った時、涙ぐんだ留花を愃が抱きしめたときのことだった。
―今日は、こうして触れても、留花は怒らないのだな。
 初めて町中で出逢った時、ふと留花の髪に触れた愃に向かって留花は手厳しく抗議した。愃は、そのときのことを言ったのだ。

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