テキストサイズ

手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

「今朝のそなたの姿を見ていて、良いものだなとつくづく思った。妻がすぐ傍にいて、良人である私のために手ずから食事を作ってくれる。妻の手作りの朝食を口にしながら、他愛ない話をし、妻の笑顔を眺める。そんな当たり前の光景に憧れていた。私がこれまで二十七年生きて、心の底からどれほど望んでも、けして手に入らなかったささやかな幸せが今、こうしてこの手の中にある。私は何と幸せな男だろう、そう思うよ」
「愃さま―」
 留花はこれまで両班や王家に生まれた人たちを恵まれていると思ってきた。朝鮮では、生まれながらに、いや、生まれる前から既に身分というものがきっちりと決められていて、人は定められた身分の中でしか生きてゆけない。
 両班家に生まれれば、ご馳走を食べ身を綺羅に飾り、さしたる苦労もなく出世できるし、末は判(パン)書(ソ)にまでなれる。裏腹に賤民(チヨンミン)の子として生まれれば、〝獣より劣る〟と貶められ蔑まれ、物のように売り買いされる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ