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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

「私は今まで、両班に生まれれば、美味しい物を食べられるし綺麗な着物も着られるし、きっと物凄く幸せなんだろうなぁと考えていたんです」
 留花の言葉に、愃は複雑な笑みで応えた。
「確かに―物質的な意味では留花の言うとおりだろう。両班の子弟として生を受ければ、一生、飢えるということは知らずに済むだろうからな」
 留花は愃の言う〝物質的な意味〟という部分が気になった。
「物質的な意味では満たされていても、心は満たされていないということですか?」
 留花の問いに、愃は笑顔で頷く。
「留花は察しが早い。きっと生まれつき頭が良いのだろう。そなたの言うとおりだよ。本当の幸せをひと口で説明するのはとても難しい。何故なら、幾ら心豊かに生きようと思ってみても、あまりに貧しくてその日の食べる物、住む場所すらないほど困窮していたとしたら、どうだろうか?」

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