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手紙~天国のあなたへ~

第4章 野辺送り

 最後は質問を投げかけられる形だったので、留花は思ったままを述べた。
「そうですね。その日を暮らしてゆくのにも困る有り様なら、心豊かではいられないと思います。お腹が空いていたら、苛々もするし、寒かったり暑かったりすれば、心穏やかでいられるどころではありませんもの」
「そうだろう? かといって、食べる物がたくさんあって、贅を凝らした屋敷に住んでいる両班が皆、心豊かに暮らしているとは限らない。むしろ、どれほど贅沢な暮らしをしていても、心は索漠としているのではないかな」
「本当に難しい問題ですね」
 留花が首を振ると、愃は笑った。
「私は、ささやかな暮らしの中にこそ、本当の幸せがあるのではないかと思う」
「ささやかな幸せ?」
「そうだ、例えば今、私が留花とこうして差し向かいで手料理を食べている。こんな当たり前の暮らしの中に、人が人として生きてゆく幸せがあると」
「ささやかな幸せ―」
 留花は愃の言葉をなぞると、うつむいた。

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