短編集
第15章 『或る殺人の風景』
窓ガラスから歪んだ光が差し込んでいる。
埃がまっている。
―ひゅう、ひゅう
血液が気管支に溜まって、隙間からかろうじて呼吸をする。
壊れたと思った肺はまだ使えるようだ。
体にはもう力が入らない。
末端には痺れ、悪寒。
血が流れすぎた。
あいつの母親を殺したのは俺だ。
不倫をしたから。
あいつが不倫をしたのは、俺が家に帰らなかったから。
寂しかったのだろう。
だが、俺が家に帰らなかったのは、あいつらのために仕事をして稼いでいたからだ。
俺が働かないとあいつらの幸せはない。
幸せは金じゃないだと。
よく言えたものだ。
金がなければメシも食えない。
あいつは俺を裏切ったんだ。
だから死んで当然だった。
だから殺した。
ベッドに裸ですやすやと眠るあいつを包丁で突き刺した。
俺が正しい。
俺が正しいはずだった。
…ショパンが流れている。
目は、閉じたくない。
埃がまっている。
―ひゅう、ひゅう
血液が気管支に溜まって、隙間からかろうじて呼吸をする。
壊れたと思った肺はまだ使えるようだ。
体にはもう力が入らない。
末端には痺れ、悪寒。
血が流れすぎた。
あいつの母親を殺したのは俺だ。
不倫をしたから。
あいつが不倫をしたのは、俺が家に帰らなかったから。
寂しかったのだろう。
だが、俺が家に帰らなかったのは、あいつらのために仕事をして稼いでいたからだ。
俺が働かないとあいつらの幸せはない。
幸せは金じゃないだと。
よく言えたものだ。
金がなければメシも食えない。
あいつは俺を裏切ったんだ。
だから死んで当然だった。
だから殺した。
ベッドに裸ですやすやと眠るあいつを包丁で突き刺した。
俺が正しい。
俺が正しいはずだった。
…ショパンが流れている。
目は、閉じたくない。