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短編集

第5章 イブと自販機と男

「イブと自販機と男」
街角の自動販売機。
ジュースの。
当たり付き。
スロットみたいにドラムが回転、数字が揃えば大当り。
もう1本!
なかなか当たらないけどね…。

男は深夜、仕事を終えて歩いて帰る。
しかし、自宅に到着するまでに、煙草が切れたことに気がついた。
「しまった。あ~もうこの時間じゃ自販機で買えないな…」

かといって、自宅までにコンビニなし。
仕方なく、少し遠回りしてコンビニへ寄って、煙草を買う。
店員の女の子が、サンタの帽子を被っている。
かわいい。
二十歳そこそこ、大学生のバイトかな?
自分の銘柄を伝えて煙草を買う。
「ありがとうございましたーまたお越しくださいませー」
決まり文句で送り出される男。
出口から少し振り替えって、気になるサンタ帽子の女の子を見る。
しかし女の子は次の接客にかかっていて男には見向きもしなかった。
―そうだ、世間はクリスマスだ…。
町中いたるところでクリスマスソングが流れ、イルミネーションが飾られ、ケーキやプレゼントが販売されているというのに、男には実感がなかった。
自宅を離れて単身赴任の40歳。
妻娘は別に男がいなくても勝手に楽しんでいる。
クリスマスだからといって、高い交通費を支払って家に帰る必要はない。
男は、働いて金さえ送れば、それでよいのだ。
男は買ったばかりの煙草のフィルムを剥がすと、かじかんだ指先で、1本の煙草に火を点けた。
一息吸って、曇った空を見上げる。
そして、冷たい風が男の背中を通りすぎていった。

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