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あなたが消えない

第16章 夢か幻か現実か

もう、関係ですらも…。

もう、距離すらも…。

どうにもならない所へと行ってしまった。

「どうしました?」

「いいえ。永津さん居なくなって、清々しますよ」

私は空を見上げて、涙が溢れないようにしていた。

「これからは、もっと仲良くお付き合いしていきましょうね」

「はい!もちろんです!」

ダメだ、笑うと涙が流れてしまう。

「遠山さん?」

同じ女だからか、私の様子がおかしいのに奥さんは気が付いていた。

だから、静かに私を一人にしてくれた。

涙…堪えるのに、身体が芯から震え出す。

……翔っ!……

私があの時に、つらいと言ったから?

それとも翔が、つらかったから?

何も言わず、私に知られないように、
この場所から居なくなる事を決めたんだね?

今、この空の下のどこかの新しい住まいで、新しい生活をしようとしている。

そこは、遠いの?

そこは、近いの?

私は、しばらく黙ったまま101号室の扉を見つめて、立ち尽くしていた。

震える身体を、自分の両腕で抱き締めながら。

永津 翔で、埋め尽くされた遠山 翼は、どう生きていけばいいの?

この身体は、この心は、全て愛になって、永津 翔へと注がれていたのに。

私の永遠を誓ったあなたへの愛は、この先どうやって、誓い続けていけばいいの?

つらいけど、あなたにだけは、いつまでも私の側に居て欲しかった…。

ずっと、側に居て欲しかったの!

…側に…居て…欲しかったのに…。

101号室の扉に触れて、思う。

もう、あなたはここには戻っては来ない。

もう、あなたに会えないんだって。

それこそが、一番つらいのだと。

居なくなった現実を知って、一番つらいのだと後悔した。


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