テキストサイズ

あなたが消えない

第3章 釘を刺された

結局、永津さんに散々イヤミを言われたのにも関わらず、スーパーまで車で送ってもらって…。

何がしたいのか、相手も自分自身も。
訳、分かんない。

ただ知り得た情報としては、永津さんは引っ越してきてもう二年目になるそうで、彼はここが地元なのだそうだ。

仕事場は近いと言っていた。

そりゃあ、余所者が地元っ子に対して、畑だのなんだのド田舎みたく言われたら、頭に来るのも無理はない。

仕事場だって、近いから家に戻る事も出来るんだろうけど。

静かな暮らしか…。

それは、私もそう望んでいるのは同じなんだけどな。

騒音のない、トラブルのない、引っ越したいとも思わないくらいの、静かで穏やかで居心地よい暮らし。

永津さん…。

あの人、きっとこの場所での暮らしが気に入っているんだろうな。

それにつけても、永津さん…。

見つめる瞳と、握り続けられた手のひら。

初対面なのに、あの日の一瞬で、物凄く近い存在になってしまった気がする。

夕方になると、扉が閉まる音と共にうちの玄関の壁が揺れる。

あっ、もう仕事から帰ってきたんだなぁ。

なんて思ったりして。

夜になると、今一人で何をしてるんだろう。

なんて考えたりして。

奥さんが居ないのは、不便で寂しいだろうな。

なんて勝手に心配したりして。

でも、楽しい日々を目前に今少しばかりの辛抱か。

なんて自分の事みたいに想像したりして。

私なんて、和男は仕事でほとんど朝しか顔を会わさないし、引っ越してから、手のひら返したように私に素っ気ない。

これからも、そんな日々が続く…。

いつまでも、二人住まいが一人住まいのような気がする…。

いかんいかん!

暗い事ばかり考えても、新しい日々はここから始まるんだと思わなきゃ。

和男の思考に合わせてるから、気持ちが沈むんだ。

ダメダメ! 切り替えなきゃね。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ