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あなたが消えない

第5章 沈んでいく

奇妙だと思いながらも、いつもより多めにロールキャベツを作って、それをタッパに積めて、永津さんに持っていこうとする自分がいた。

このアパートに引っ越して来て、誰よりも最初に色々と親切にしてくれたのは、紛れもなく永津さん。

で、もうあの人には甘えない。

いや、なるべく出会わないようにしなくては、自分の気持ちがおかしな方向へ行きそうだから。

和男は相変わらず、今夜も遅い。

永津さんは、もうとっくに家の中に居るみたい。

さっさと、これを渡して帰って来よう。

私は、タッパを抱えて101号室の前へと立つ。

ノックをして、

「こんばんわ、遠山です。いらっしゃいます か?」

待たずして、扉は開いた。

「どうしました?」

「あの、ロールキャベツ作ったので…」

永津さんは、スウェットの上下で寒そうにして私に言った。

「とりあえず寒いから、中入って」

そう言われて、また言われるがままな私。

「あの、これお口に合うか分からないけど」

「これ、僕に?」

「はい」

「美味しそう。いただきます」

永津さんは嬉しそうに笑う。

その油断した間に、私は帰ろうとノブに手を掛けたと同時に、また背後から抱き締められた。

「ありがとうございます」

それを言うのに、抱き締める必要はないと思うんだけど。

「遠山さん」

呼ばれて振り返る。

「…んぅっ!」

物凄い早さで、口唇を塞がれた。

キッ、キス?!

しかも、私の閉じられた口唇を永津さんは、無理矢理に舌先でこじ開けて入ってくる。

「んぅぅっ…んっ…んっ… 」

くっ、苦しい。

いきなりなのに、激し過ぎる!

唾液が漏れる深いキスは、数分間も永く続いた。

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