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あなたが消えない

第10章 愛を植え付ける

翌日、和男は何も知らずに昼過ぎまで、呑気に眠っていた。

私も、深夜の出来事で眠くて昼過ぎまで眠っていた。

携帯電話の音が鳴る。

長く鳴り続ける、その音で私は目が完全に覚めた。

私?いや、和男?

違うと気が付き、私はまた布団に横たわる。

携帯電話の音が消えた。

微かに翔の声が、下から聞こえてきた。

「もしもし……あぁ、今起きた……そう……こっちは平気だ……うん、そっちの体調は?……」

翔の声だから、だんだんハッキリと聞こえてくる。

誰と話してるの?

「……あぁ……あぁ、分かったよ……今夜伺うよ……」

伺うって、今夜どこへ行くの?

「ハハハ…今?…」

笑い声もする。

もしかして、実家に居る奥さんと話してるの?

やだな、女って勘ぐると当たるんだよね。

きっと、そうなんだ。

あんなに深夜に熱い時間を過ごしたばかりなのに。

私は布団にくるまり、耳を抑えた。

近いと全部聞こえてしまう、翔の私生活。

……バカ、あんな声で話したりしないで。

聞きたくない!

「……そうだねぇ……ボチボチ準備は出来てるから……」

もう、本当に聞きたくない!

私はわざと床に音を立てて、別の部屋へと移動した。

バタン!と大きな音を立てて、戸を閉めた。

私は決死の思いで、昨夜は翔に二度も会いに行ったのに。

苦しくて、涙が出る。

自分があの人の妻じゃない事に。

悔しくて、涙が出る。

私は翔をこんなにも愛しているのに。

悲しくて、涙が出る。

翔も私だけを愛して欲しいよ。

私がここで、こんなに泣いているだなんて、あなたは知らずに楽しそうに話している。

翔…翔…。

何度も私に気が付いてと、心の中で泣き叫ぶ。

今夜もあなたが欲しい。

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