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あなたが消えない

第10章 愛を植え付ける

結局、寝付けずに翔の帰宅を私は自分の布団の中で待って居たけれど、その日は帰って来なかった。

もう、最低。

私は最低だ。

翌朝、私は和男を起こして出勤を玄関先から見送る。

「今夜も遅くなるから、食事は外で済ませてくる。あんまり寂しかったら、翼、実家に戻っていてもいいんだよ?年末くらいわさぁ」

戻る訳がない。

ここを離れたら、翔と会えなくなるから。

「ダメダメ。ほら、アルバイトの面接がまだ済んでないから」

「そうか。いつだった?」

「今週」

「頑張れよ」

「おう!」

私はガッツポーズをした。

明るく手を振り、見送った。

……。

もう、私はどうしたらいいのか分からないよ。

一人になって、ソファーの上に倒れ込んだ。

……。

翔との関係。

この先、奥さんが戻って来たら、さすがに今の関係を続けていくだなんて、絶対に無理だ。

キスだって、セックスだって、まずもって二人きりの時間を過ごす事が無理なんだから。

でも、側に居るのだと思うと…会いたくなってしまう。

偶然、外で顔を合わせたら私は、翔を求めずにはいられなくなる。

その衝動を抑えられなくなった時には、私はどうしたらいいの?

……。

忘れてしまえるくらい遠い距離に、今すぐ行きたい。

時々、考え込むと逃げ出したくなる。

そうしたら、翔の家族とも一切顔を合わせなくて済む。

声も聞かなくてもいい、私生活を知らなくてもいい。

でも、もう引っ越す事は和男との約束でできない。

挨拶まわりなんて、和男の言う通り。

そんな事するんじゃなかった。

和男の言葉を思い出す。

「自分のクビを締める事になっても知らんぞ」

確かに、それは言えてるかも。

近所付き合いの出来ない私が、近所付き合いの出来ない男と、間違った近所付き合いをしている。

永遠の仲だと、託つけて。


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