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あなたが消えない

第13章 あなたの全てが欲しいのに

さっきの、いやらしさが吹き飛ぶくらい、私たち二人はお風呂場でまた騒いだ。

「こらっ!もっと優しく洗えっての」

私は翔の背中をスポンジでゴシゴシ洗う。

「激しいの好きな癖に」

「アホじゃねぇの」

翔の色白のキレイで大きな背中を私は両手で、泡立てながら隈無く洗う。

「ここの首の辺りも」

「ここ?」

私の手にそっと触れて、洗って欲しい所を示す。

「ここ」

一瞬、この近いうち待ち受けている、自分の現実が浮かんだ。

…私たち二人はどうなるのだろう。

手が止まるから、翔は鏡越しで私の姿を見た。

「どうした?」

「別に」

翔は立ち上がりシャワーで泡を洗い流し、浴槽に溜まった湯船に浸かった。

「翼もおいで。調度いい湯加減だ」

何て、寂しさを表現したらいいのだろう。

どう、やるせない気持ちを伝えたらいいのだろう。

もし、万が一。

私が離婚したとしても、翔は奥さんとは離婚してくれないだろうし。

いや、するわけない。

産まれたばかりの子どもがいるのに。

「翼ってば…おいで」

私も浴槽に身体を沈めた。

「……」

バシャッ!

翔はイタズラな顔して、私の顔に湯を引っ掛けた。

「浮かねぇな」

「そんな事ないよ」

バシャッ!

また、湯を引っ掛ける。

「嘘つけ」

「嘘じゃない」

やっぱり…、言えない。

「じゃあ、嫌がれよ」

無邪気に何の警戒もなく、翔は私の前で笑顔を見せる。

あなたを奥さんの元から、奪ってやりたいだなんて言える訳がない。

私も笑顔で、湯を引っ掛けた。

「とぉ~っくに、嫌がってますよ!」

「掛け過ぎだろ、バカ!」

私は自分の気持ちを、押さえ込むのが必死で。

バシャバシャと、翔の顔に湯を引っ掛けた。

もぉ、本当は不安で泣きそう。

「オラオラァ~ッ!」

「オラオラァ~ッ!」

翔は何度も顔を片手で拭っては、また湯を引っ掛ける。



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