
彼と心と体と。
第37章 不機嫌と優しさ
「久しぶり」
寄りかかると背中に手を回された。
今までの拓海なら、しなかっただろう。
あたしを少し離し、拓海はキスしようとした。
まだしたくない。
あたしはあごを引いてから抱きついて逃げた。
拓海は驚いていたけれど、そんなの知らない。
拓海を確かめるように腕の力を少しだけ強めた。
やっぱり拓海は拓海だ。
他の誰でもない、かけがえのない人。
拓海にとってあたしも、かけがえのない人だったらいいのに。
絶対にそんなことないよと思いながらも、希望を抱く。
人間は絶望の中に希望を見出せる生き物なのだそうだ。
