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喫茶店ルノアール

第1章 1

俺はもう何も言わない。
こういう場合男は何も言ってはいけないのだ。
男は黙っていても、
「何とか言いなさいよっ!」
と言われ、何か言っても、
「口答えしないでよっ!」
と言われるのだ。
黙っていた方がこの場合幾らか利口である。
「貴方とはもうやっていけない。もう、別れましょう!!」
別れ話を始めたのは俺のはずなのに、いつの間にか俺が振られるという状況にすり替わっている。
と思いながらも肯定の意味で首を縦に振った。
間も置かずに啜り泣く声がきこえる。
「ヒック、ヒック、なんでよ~、なんで別れるなんていうのよ、ヒック私は貴方のことを愛してたのに」
愛・・・重い言葉だ。
と同時に思い言葉だ。
なんて言って寒いオヤジギャグを言うくらいの余裕を俺はのこっていた。
可憐なバラのような刺を持った彼女が、玩具を奪われた幼稚園生のように泣きじゃくる程別れ話がショックだったのか。
それとも彼女お得意の演技なのか、俺には解らない。
一つ解るのは自分はこの女に対する愛が俺には無いと言う事だ。

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