
貧乳ヒメと書かない作家
第32章 悩める小説家と
桐生はしばらくそこに立ち尽くしていた。
千春。お前何考えてんだよ。
俺とのことはどうなったんだよ。
何度も言いかけてやめるを繰り返した。
あの時の涙を思うと強く聞けなかった。あんなに強がってはいても、実際はもろい。ひどく弱いのだから。
自分らしくもないと、桐生は思ったが、今は少し慎重になるべき時だと思った。
「ねえねえ、あたし機会があったら言おうと思ってたんだけどさ」
「え?」
桐生はドキッとして返事をした。
千春は鞄の中をゴソゴソとすると、
「これにサインしてよ!」
と言ってそれを渡した。
サイン?サインてもしかして?
「あ…あ?!」
それは桐生の書いた小説の単行本だった。
「ずっと一緒だったからまたでいいかーって思ってたら伸び伸びになっちゃってさ。一番最後のページにお願い!はい。これペン」
と言って黒のボールペンを桐生にわたす。
「あぁ、サイン、ね」
なんだ、ドギマギさせやがって!
こ、婚姻届かと思ったじゃねぇか…!!
