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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第13章 トンボの話②

新しく8歳のミユという人格が現れた。
いったいこの娘の中には何人の人格が潜んでいるのか。

今、私が把握している表に出てきた人格は。

⑴美香ちゃん本人と思われる主人格。高校2年の17歳。物静か。知能は高く理解力がある。ただ、それゆえにこちらの真意を探ろうとして殻に閉じこもることがある。
⑵紫音20歳。男のような低くドスの訊いた声で喋り、口が悪い。私や両親に敵意をもっている。暴力的で攻撃的。
⑶ミユ8歳。ずっと泣いていてほとんど話にならない。この娘のことはまだ何も分かっていない。しかし現れたタイミングからすると、もしかしたら原因発見の一番のキーパーソになるかもしれない。

そして臆病で引っ込み思案なのでほとんど表に出てくることがない
⑷亜里沙16歳。引きこもりで学校には行っていないという。喋り方は幼く幼稚。でも喋っていると優しい性格がうかがえる。動物や可愛いものが好き。

こうして4人の人格を把握しているが解離の場合、必ずそれぞれに役割があるはずだ。私はまだそこまで見い出せてはいない。

治療は確実に前進しているはずだった。
ここがターニングポイントとみた私は、解離の原因を探るべく、「虐待」というキーワードを口に出してみた。
解離性同一障害の報告例でもっとも多いトラウマの原因であった。
この娘はそれに激しく反応を示しパニック状態に陥った。
その状況から虐待が原因である可能性が高いのは間違いない。
それは誰からなのか?
父親?母親?祖父母?どちらにしても身近な存在であるだろう。

今、必要なのはそのトラウマの記憶を本人に思い出させてそれを認識させることだった。

虐待、特に性的虐待の経験などの耐えれない辛い出来事を自分に起こったことではないと思い込むことで心のダメージを回避させるために解離がはじまる場合が多い。

私はこの可憐で美しい娘に起こったであろう悪夢のような記憶を思い出させるのは胸が痛んだ。



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