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最後のキス~琉球の海を渡る風~

第3章 The wind of Ryukyu~琉球の風~

 一陣の風が髪を嬲ってゆく。
 かすかに潮の匂いを含んだこの風を藍那はずっと愛してきた。それは紛うことなく真戸那の記憶ではなく、藍那のものだ。藍那は幼い頃、母に連れられて毎年訪れていた沖縄の風を心から愛していた。故郷の北の街の淀んだ重たい灰色の空気、その空気を震わせる冷たい風とは全然違う。
 気まぐれな風は藍那の髪を揺らし、二人の間をあっという間に通り過ぎていった。

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