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近くて遠い

第15章 芽生え

「よくわからなくて…」


怖いと思ったり、
悲しいと思ったことの方が多いから…


「真希様、恋愛経験ないんですか?」


「えっ……」


愛花ちゃんの質問にドキっとした。


恋愛経験…


顔を上げて、クローゼットの方を見た。


そこには、
ぼろぼろになってもやはり棄てられなかった傘が入っている…


「人を…好きになったことはあるよ…でも…」


完全な片想い。



相手は私を想ってくれているどころか、私の顔さえも忘れて、すぐ脇を通りすぎて行った──



もう忘れようと決めたのに…

やっぱり傘は捨てられず、わざわざradiceから持ってきて、大切に仕舞われたまま。


「失恋しちゃった。」


クローゼットから目を放し、無理矢理笑顔を作って愛花ちゃんを見た。


「そうだったんですか…」

愛花ちゃんはそう言ったきり、口をつぐんでしまった。


男の人に愛されるって、


どんな感じなんだろう。


それがよく分からない…


分からないまま、

私は身体を有川様に捧げてしまった。


嫌だと思ってたのに…

あんまり優しいから…



─────もうお前しか抱かないっ…もっと…もっと俺を欲しがれっ!



苦しそうな有川様の表情…

身体に響いた低い声…


思い出すだけで身体が熱い…


「真希様はともかく…
ご主人様は真希様の事愛してらっしゃると思います!」


黙っていた愛花ちゃんは突然私の手を取ってそう言った。


「有川様が……私のこと……?」


「ええ!」


愛してる……?



そんな確証…
どこにもない…


あぁ、そうだ、だからだ…

どうしてこんなに不安なのか…


有川様は、たくさんに私の名前を呼んで、
もう私以外抱かないとまで言って下さったけど…


愛を示す言葉は、


一言も囁かなかった…



たった一言、『好きだ』とか『愛してる』と言ってくれたら


こんなに不安にはならない…


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