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近くて遠い

第15章 芽生え

──────…

自室に戻って扉を閉めると、光瑠はそのまま扉に背中をついてズルズルと床に座り込んだ。



────婚約を本当のことにしてもいい…



不安そうに自分を見つめる真希に、拒否されることも考えずそんなことを言ってしまった…



やはり今日の自分は変だ。


光瑠は天を仰ぐとゆっくりと目を瞑った。



どれが本当の自分なのだろうか……



この込み上げる気持ちは…



真希といると、
何度も口にしそうになる言葉…


言えば拒否されるかも知れないという思いと共に

悠月の声が頭の中に流れる…



───────ひかる……あい…してる…よ…


「悠月っ…」



一筋の涙が光瑠の美しい頬を流れた。


真希は悠月じゃない…


そう自覚すればするほど、悠月を裏切っているような気持ちになって、
真希に対しての想いを口に出来ない。



光瑠は三年間ずっと置き放してある箱を歪んだ視界の中で捉えた。


それは悠月が逝ったあと、病院が遺品として渡してきたものだった。


光瑠は立ち上がると、その箱の蓋を掴んだ。



っ……まだだ…

まだ開けられない…



少しだけ浮かせた蓋をまた静かに置いた。



「はぁ……」



深いため息が部屋中に満ち溢れる。


自分は一体いつになったらあの死から立ち直れるのだろう…



一体、
いつになったら……




光瑠はグッと手を握った。


また明日も早い…

眠らなくては…



ベッドに自分の身を横たえると、光瑠は先ほどみた真希の笑顔が浮かんだ。



すると不思議とすぐに眠ることが出来た。


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