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近くて遠い

第17章 偵察

「おいっっ!起きろっ!」


「いたっ…!!!」


突然、頬に走った痛みに私は飛び上がるようにして起きた。


え…


なんだっけ…
私…なにしてた?


ハラリと何かが肩から落ちるのを反射的に掴んだ。



「いつまで寝てんだ!ほら、返せ。」



脇から長い手がのびて、私から白いジャケットを奪った。


あ、そうだ、

私、光瑠さんにどこかに連れられてて…

途中で眠くなっちゃったんだ…


「ごめんなさいっ」


「行くぞ。」


「えっ…あっ、」


無理に腕を引っ張られて、私は車から出ると、ひんやりと冷たい風を頬に感じた。


広大な土地に

大きな作業車がいくつも忙しなく動いている。

ところどころには、立派な建物が出来上がり始めている。


中でも私の目の前にある一番奥の建物は、まだ骨組みだけの姿だが、
他と比べ物にならないくらい大きくて、異彩を放っていた。


ここはどこだろう。

工事現場…?



「大分出来てきましたね。」


いつからいたのか、
酒田さんが現れて、その様子を眺めながら言った。


「あの……
ここは…」


「有川商事の新しいプロジェクトです。
すごいでしょう。近未来的な街を1から作っちゃうんですから。」


タブレットを開き酒田さんは、完成図を私に見せながら、ワクワクした面持ちでいった。


「すごい…」


あまりに大きすぎる話に私はそれしか言葉が出なかった。



「ね、すごいでしょ。
社長が着任してから初めての大きなプロジェクトです。いや、有川商事が始まって以来かもしれませんね…」


少し離れたところで、現場の人と真剣に話す光瑠さんを酒田さんは眺めた。


「若いのに、あの行動力。少し…、いや、かなり横暴ですが…男として尊敬しますよ。」


クスッと笑ったあと、酒田さんの真面目な横顔に少しドキッとした。


真剣な二人は
私には眩しすぎるほどだった。


私にとって、仕事は生きるためのものでしかなかった。


けれど、彼らは違う。


そこには
未来と希望と夢と…努力と…


羨ましい


そんな気持ちになるほど
彼らは輝いていたのだ。

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