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近くて遠い

第29章 虚構の愛、真実の愛

「ご、ご主人様っ!
おかえりなさいませ!」


光瑠の予定よりも早い帰宅にメイドが慌てて声を出した。


「光瑠様っ…」


階段から光瑠の姿に目を見開きながら古畑が降りてきた。



「おかえりなさいませ。
予定より随分早いご帰宅で…」



「あぁ、飛行機を一本早めた。」


光瑠はそう言いながら、ジャケットについた雨を払い落とした。


そして、辺りを見回す…



何故か言葉をあまり発さぬ古畑を少し奇妙に思いながらも、光瑠は隼人の傘の話に感じた取っ掛かりを気にしていた。



「真希は…」




からかわれる事を恐れず光瑠が聞くと、古畑は顔を歪ませて、お部屋ですと言った。



「先ほど、関根様もいらっしゃって…」


「関根?」


古畑の言葉をきいて、


光瑠の頭の中で
バラバラになったピースがゆっくりと繋ぎ合おうとしだした。



嫌な予感を感じながら、


光瑠は真希の部屋へ向かった。


そうだ

雨の日に、傘をあげたという話は


関根から聞いたんだった。


確かグレーの…



───────ダメっ…捨てないでくださいっ!




同時に真希の言葉を思い出す…


バラバラのピースが


ゆっくりと


望んでいない形を作り上げて行く…



まさか──


そう思いながら、光瑠の足が早まる。


あれは、
関根が2ヶ月ぶりにこの家に来た日の夜の事だった。




ボロボロで壊れていたが



確かにあれはグレーの傘だった。



──────ずっーーとその傘大事に持ってたんだよっ!



何故、使い物にならぬ傘を真希はあそこまで固執していた……?



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