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近くて遠い

第5章 母と病

「はっ、母が…母が病気で…」


私はついに恐怖に耐え兼ねて口を滑らしプライベートなことを言ってしまった。


「……それで?」



ソファーの背もたれに寄りかかり、勝ち誇ったような顔をして有川様が問う。



「それで、治療費と入院費が必要で…
でも、お金がなくて…」



あれ、

どうしよう…


人に話したら何だか苦しくなってきた。



やだ…

涙なんか有川様の前で絶対流したくない。



「それで…だから…」


うまく声が出なくなって私はそのまま黙ってしまった。




「だから、お前はここで働いているのか?」



涙を堪えて下を向いている有川様が美しい顔をのぞかせた。



コクンと首を振ると有川様は、そうか、とポツリ呟いたまま何も言わなくなった。



どちらとも黙り込んで、シーンと静まり返る。






「……酒を入れろ」


「っ…はい……」



そんな中、


有川様が再び私に命令した。


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