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近くて遠い

第10章 偽りと有川邸

─────…


コツコツコツ…と古畑さんの足跡だけが廊下に響く。

早くお母さんの様子をみたい気持ちと、
また嘘をつかなくてはいけない罪悪感。


辛いことだらけなのに
笑顔を作らなくてはいけないことに、私は疲れていた。


「真希様、着きました。」


ボーッとしている私の前に気付いたら扉が現れた。



「え、あ…
ありがとうございます…」



私は軽く頭を下げるとゆっくりと扉を開いた。


「真希…」



そこには大きなベッドに横たわり、酸素マスクをしたお母さんが微笑んでいた。


「お母さんっ」


私は勢いよく駆け寄ると、ベッドの脇に座った。



「本当にすごいおうちね…びっくりしちゃったわ…」


とお母さんは周りを見渡した。



「それにね、お医者が来て、色々して下さったの。
酸素マスクなんか大げさですって言ったんだけど、つけたら楽ねぇ…」



目尻にシワを寄せてお母さんは微笑んだ。



「良かった。本当に…」



私も微笑み返して、お母さんの手を握った。



「隼人は……?」


少し身体を起こして私の周りを見た。



「隼人様は、ご自分のお部屋で遊ばれています。
クレヨンと画用紙を差し上げたら大層お喜びになって…」


古畑さんの言葉に、お母さんはそうですか…とか細いながら、嬉しそうな声で言った。



ようやく手にいれた安心……



お母さんの笑顔を見て、私は心から、これで良かったのだと思った。

「それで……
有川さんは……?やはり忙しいのかしら?」


「あ…うん…そうみたい…」


予期していたとは言え、やはり嘘をつくことに言葉をつまらせてしまった。


どこまで事情を知っているのか分からない古畑さんが、何か言ってしまうのではとハラハラしたが、
そんな様子もなく、ただ黙って立っているだけだった。



「そう…残念だわ…
お礼を言いたいのに…

それに、真希が愛した人が一体どんな人なのか、気になるわ。」



そう言ってお母さんは私の頬を包み込んだ。



お母さん……



嘘をついている罪悪感に押し潰されそうになっていると、お母さんは静かに目を瞑って眠ってしまった。




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