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てるてる坊主

第1章 一

母が"てるてる坊主"になってから、長い時間が過ぎた。

子供だった僕は大人になり、子供がいる。

幸せだと思う。

でも時々ちょっとした不幸がある。

いや、不幸ではなく、面倒事だ。

社会の中で生きていれば誰もが経験すること。

僕が特別大変だとか、不幸とかいうことはない。

むしろ僕は幸せなのだと思う。

仕事も順調で、家庭に不満はない。

妻も子供も可愛い。
でも時々面倒事が起きる。

僕はそうなった時、母が教えてくれたおまじないを行う。

"てるてる坊主"を作るのだ。

大きな気に真っ白な"てるてる坊主"を吊す。

そうすると、抱えていた面倒事が解決する。
だから僕は今でも"てるてる坊主"が大好きだ。

そして僕は今、"てるてる坊主"を吊している。

真っ白な"てるてる坊主"を。

これでいい。

これで全てが解決する。

母に教えてもらったおまじない。

僕と母だけの秘密。
木の枝に吊られた"てるてる坊主"が揺れる。

ゆらゆらと。

僕は満足して家に帰る。

とても満たされて。

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