霧と繭
第1章 ―
そもそも私は、浩美という女が大嫌いだった。その理由はいたって簡単で、俊二は完全に私の男となったというのに、ネチネチとしつこく私と彼の仲を邪魔してきたからだ。本当にしつこく、私はほとほとうんざりしていた。
俊二も俊二だった。彼がはっきりと別れてほしいと言わないから、浩美はいつまでも諦めないでいたのだ。しかし私が浩美に別れを告げるよう俊二に言っても、彼はいつも曖昧な返事を寄越すだけだった。
ある日私は、ついにたまらなくなって俊二に詰め寄った。大学の帰りに寄ったコーヒーが話題のカフェでのことだった。私のことを本当に大切に思っているのなら、今すぐに浩美とはきっぱりと別れてほしい。そのようなことを言うと、俊二は悪いことをして叱られた子どものように顔を伏せてしまった。右手でカップを持ち、コーヒーを一口だけすする。その態度にいらいらした私は、何も言わない俊二を正面から睨んでやった。やがて彼は肺の中の息を吐き出してから、重たい口を開いた。俊二によると、もう何度も別れ話はしているそうだった。けれども浩美がそのことを聞き入れようとしない、とのことだった。
本当に現実の見えない女だと、私は呆れてものも言えなかった。もはや愛されていないことはわかっているはずなのに、どうして気に入られようと俊二に付きまとうのだろうか。私は心底不愉快になって、うなだれる俊二のことを責めた。悪いのは浩美とわかっていても、解決をできない俊二にきつく当たってしまった。私は今になっても、浩美の気持ちが理解できない。確かに俊二は魅力的だったかもしれないけれど、どうしてそこまで昔の男に固執したのだろうか。どうあがいたって自分のもとには戻ってこないとわかったのなら、私であればいさぎよく他の男を探しただろう。私と俊二の為にも、浩美もそうすればよかったものを。彼女は性格こそ悪かったけれど、本来は美人だったので、おとなしくしていれば男なんていくらでも寄ってくるはずだったのだ。
俊二も俊二だった。彼がはっきりと別れてほしいと言わないから、浩美はいつまでも諦めないでいたのだ。しかし私が浩美に別れを告げるよう俊二に言っても、彼はいつも曖昧な返事を寄越すだけだった。
ある日私は、ついにたまらなくなって俊二に詰め寄った。大学の帰りに寄ったコーヒーが話題のカフェでのことだった。私のことを本当に大切に思っているのなら、今すぐに浩美とはきっぱりと別れてほしい。そのようなことを言うと、俊二は悪いことをして叱られた子どものように顔を伏せてしまった。右手でカップを持ち、コーヒーを一口だけすする。その態度にいらいらした私は、何も言わない俊二を正面から睨んでやった。やがて彼は肺の中の息を吐き出してから、重たい口を開いた。俊二によると、もう何度も別れ話はしているそうだった。けれども浩美がそのことを聞き入れようとしない、とのことだった。
本当に現実の見えない女だと、私は呆れてものも言えなかった。もはや愛されていないことはわかっているはずなのに、どうして気に入られようと俊二に付きまとうのだろうか。私は心底不愉快になって、うなだれる俊二のことを責めた。悪いのは浩美とわかっていても、解決をできない俊二にきつく当たってしまった。私は今になっても、浩美の気持ちが理解できない。確かに俊二は魅力的だったかもしれないけれど、どうしてそこまで昔の男に固執したのだろうか。どうあがいたって自分のもとには戻ってこないとわかったのなら、私であればいさぎよく他の男を探しただろう。私と俊二の為にも、浩美もそうすればよかったものを。彼女は性格こそ悪かったけれど、本来は美人だったので、おとなしくしていれば男なんていくらでも寄ってくるはずだったのだ。