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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

 そう、この女にとって、清七はけして存在してはならぬ男なのだ。
 恐らく、この女にしてみれば、清七が彼女の暮らす世界に存在し、呼吸をすることさえ厭わしく、疎ましいものに思えるに相違ない。
 ここまで惚れ抜き、心奪われた女に嫌われたかと思えば、流石にやるせなかった。清七はお須万に対して初めから何の見返りも期待してはいなかった。ただ、彼女のいる世界の片隅でひっそりと生きて、お須万の姿を遠くから眺めていられれば、それで十分であったのに。

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