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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

 振り絞るような言葉に、お須万が小さく頷いた。清七が拾い集めた銭を戻した巾着を手渡すと、うなだれて受け取る。もう一度会釈をして、清七に背を向けると急ぎ足で立ち去ってゆく。足早に歩み去るその姿は明らかに清七から一刻も早く逃れようとするかのようだった。
―そんなに急いじゃア、転んじまうぜ。
 思わずそう声をかけたい衝動に駆られ、清七はすんでのところで、そのひと言を呑み下す。

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