テキストサイズ

花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第4章 春の夢 四

 文遣いを頼んだ子どもには、文を渡すだけ渡したら、すぐにその場を離れるようにと言い含めてある。子どもの口から清七の身許が露見する怖れはないだろう。
 別に何を、どうするつもりもない。もちろん、身の代金なぞ要求する気もない。
 第一、自分の娘を父親がかどわかして、そのかたに金を要求して何になるというのだ。それこそ、とんだ茶番だ。
 清七はお千寿をそっと抱き上げると、そのふっくらとした頬に自らのそれを押し当てた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ