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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第2章 春の夢 弐

 と、なおも続けようとした番頭を、お須万が制した。
「嘉一(かいち)さん、もう良いのよ。きっと通りすがりの人が人違いをなすっただけなんでしょう。それよりも、もう行きましょう」
 お須万に言われ、嘉一と呼ばれた番頭が頭を下げた。
「判りました。お内儀さんがそうおっしゃるなら、私ももう何も申しません」
 嘉一は不承不承頷いたが、それでもなお腑に落ちない様子で幾度か清七を振り返って見ていた。

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