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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第2章 春の夢 弐

 とはいえ、万が一にもその目論みが現実のものになっていたとしたら、怖ろしいことであった。そのような犯行を世では無理心中という。女の色香に血迷い、女を死出の道連れにして自分の想いを遂げようという身勝手な男の凶悪な企てと見られても致し方ない。
 清七がそんな卑劣な極悪人にならずにすんだのは、幸運というか、ほんの偶然にすぎなかった。もし、その時、清七がお須万の姿をひとめでも眼にしていれば、お須万を刺して、自分もすぐに同じ刃でその胸を貫いていたに相違ない。

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