テキストサイズ

ショートラブストーリー

第7章 高橋②

そんなことも知らない俺は。



「高橋さぁん…好き…」

「俺も…」

コトが済んでからも、甘い余韻に浸りながらキスしあってると、真由美ちゃんが資格証を見ながら聞いてきた。

「バリスタの試験…大変でした?」

「ん…でもまだレベル1だし」

俺の隣には、オーナーの資格証が貼ってあって…最高レベルの3だ。

「目指す先は長そうだ」

苦笑を浮かべる俺を、真由美ちゃんが上目使いで覗きこんだ。

「高橋さん、名前…なんて読むの?」

「…四字熟語の読み方、そのまんま」

言いたくなくて。遠回しな答えをしてしまう。

真由美ちゃんはちょっと考えて…思い当たったみたいで、あ、と声をあげた。

「ねぇ…一度だけ、名前呼んでいい?」

「今?」

「ぅん。何かすっごく名前で呼びたい」

そんな、とろけそうな笑顔でお願いされたら。

「今だけ…だぞ」

思わず溜め息が漏れる。

真由美ちゃんはそんな俺の首に腕を回して、耳元で囁いた。

「一期…さん。一期さん、大好き」

一期一会という言葉から名付けられた、自分の『いちご』って名前が嫌いで仕方なかった。

だけど、こんな風に甘くやさしく囁かれると…素直に受け入れられる俺がいて…

真由美ちゃんをぎゅっと抱きしめて、肩に顔を埋める。

真由美ちゃんだから、こんな気持ちになるのかな。

俺…もう、真由美ちゃん無しじゃ駄目かも。

自分の想いに小さく笑いを浮かべて、もう一度深くキスをした。



おわり

ストーリーメニュー

TOPTOPへ