
禁断兄妹
第65章 聖戦③
「なあ萌、バイトって何のことだ?俺はずっと下のロビーにいたんだよ」
眠たげな瞳が
薄く開いた。
「だって‥‥メールで‥‥」
「メール‥‥?
お前本当に大丈夫なのか?痛いところはないか?
もう一度詳しく検査をしたほうがいいんじゃないか?」
「‥‥」
「記憶障害があっても一時的な場合がほとんどです。どうか焦らずに、今日のところはお引き取りください」
看護師が
俺を制するように囁く。
言っていることはわかる
でも
俺の気持ちは
どうしても収まらなかった。
「大丈夫か萌、しっかりしろ」
お前に伝えなくちゃならない
大事な話だって
あるのに
俺は止めていた手を
再び萌に伸ばした。
指先に冷たい頬が触れた瞬間
萌の表情が歪んで
顎を引くように
俺の手から逃れた。
「萌‥‥?」
軽いショックを覚えながら
追いかけるように
更に手を伸ばした。
身体を強張らせる萌
その冷たい頬を暖めるように
手のひらでそっと包むと
びくんと
萌の身体が揺れた。
「‥‥っ」
掛け布団の中に入っていた両手が現れて
俺の手を強く振り払うと
苦しげなうめき声をあげる口に
押し当てられて
萌は
呆然とする俺の目の前で
嘔吐した。
