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禁断兄妹

第36章 話したいこと


長い廊下を歩きながら
息を整える。

鼓動は速いまま
まだ収まらない。


───もし俺に‥‥話したいことが、あるなら‥‥もしあるなら‥‥今、言えないか‥‥?───


さっきの父さんの言葉が
まだ俺の心をかき乱している。

どういう意味だ

父さん

まさかあなたは
俺と萌の関係に気づいているのか

俺を試しているのか

まさか
考え過ぎだ

エレベーターの前
ちょうど開いた扉に足を進めようとした俺の耳に


「柊君っ」


はっとして振り返ると
美弥子が駆け寄ってきた。


「柊君っ」


息を切らしながら
俺の前で足を止める。


「‥‥病院内で走るなよ」


俺の言葉に美弥子は子供のように首をすくめた。


「柊君、歩幅大きいんだもの‥‥ドア開けたら、もう遠くまで行っちゃってて‥‥」


「それと、いまだに君づけは恥ずかしいから、あんまり外で呼ぶなよ」


美弥子は表向きは俺を柊とかお兄ちゃんとか呼んだりするが
基本的には柊君と呼ぶ。

俺も萌の手前があるから母さんと呼ぶが
基本的には美弥子と呼んでいる。

出会った頃から変わらない
俺達の微妙な距離感


「うん‥‥」


美弥子はぎこちなく笑った後
真面目な顔で俺を見上げた。


「柊君‥‥今日は来てくれて、本当にありがとう。そして、あの、本当に、ごめんなさい‥‥」


そう言って深く頭を下げる。


「もういいよ」


「謝って許されることじゃないって、わかってるけど、でも、」


「いいって言ってるだろ」


俺はわざと大きなため息をつくと
美弥子の額に人差し指をあてて
押すように頭を持ち上げた。


「いたたっ」


顔をしかめ仰け反る美弥子


「おでこ、ひっこんじゃうっ」


俺は吹き出した。


「そーそー。いつものすっとぼけたあんたじゃないと、調子狂うよ」


「‥‥」


「父さんの事、頼むよ」


「うん‥‥」


美弥子は泣き笑いの表情で額をさすりながら
何度も頷いた。

もう一度開いたエレベーター
乗り込んで美弥子に手を振る。


「ちゃんと飯食えよ‥‥じゃあな」


閉まり始めた扉
その時風のように
走り込んできた人影


「お母さんごめんなさいっ、私も帰るねっ」


「萌?!」


俺と美弥子は同時に声をあげて
そのまま
扉が閉まった。

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