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片想いの行方

第59章 弱さと痛み



▼Side... ヒメ




「…ダメだ。 留守電になっちゃう」




何度目かのコールにも応答は無く、アンナはため息をついて携帯を切った。



クリスマスが終わるまで、残り1時間と少し。



俺の出番は終わり、店内にはピアノの旋律だけが響いている。




「コート忘れて出て行ったのに、あの格好で外を歩いてるってことよね。
まさかそのまま帰ったなんてこと……」


「アンナ、お前もういいから家に帰れ。
そのコートは俺が会社で渡しておくから」





下のフロアを見下ろし、ワインを飲みながらそう言うと


隣りに座るアンナが、携帯から顔を上げた。





「旦那をいつまで下の駐車場で待機させる気だ。
妊婦なんだから、心配させんなよ」


「……でも…!」


「いいから。 俺はまだバントの奴らとここで飲むし。
……それに」






窓の外で輝く、クリスマスカラーの東京タワーを見て


俺は静かに続けた。







「……美和はもう、戻ってこねーよ」







……こんな時でさえ



持ち前の勘が冴え渡る。







「…………………っ」





その言葉を察知した、アンナの切ない顔を見て



俺は小さく笑った。

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