LAST SMILE
第17章 最初の歌
*
どれだけそうしていたんだろう。
祐兎の苦しそうな息遣いだけが響いていて、
あたしはじっと、祐兎の腕の中にいた。
あたしがすっぽりと入ってしまうように、
祐兎の体は大きくて、
あたたかく包み込んでくれた。
「ねぇ、祐兎」
「・・・ん?」
「あったかい・・・」
「・・・俺も」
祐兎の声が聞こえる。
低くて、心地いい、綺麗な声。
祐兎の胸に顔を埋めると、
心臓の音がよく聞こえた。
その規則的な鼓動に安心して、
あたしは目を閉じた。
「あのさ、あのライブの・・・
アンコールの曲・・・歌詞かえたろ?」
祐兎が、しんどそうに言った。
少し、咳をしてる・・・。
咳き込むたびにあたしの体は反応して、固まる。
そのたびに祐兎は、強く、優しく
抱きしめてくれて安心させてくれた。
「あれ・・・すっげぇ良かった」
「ほんと?あれは―」
あの曲は、
あの歌詞は・・・。
あたしの祐兎への―
「なぁ、あれ、今歌ってよ」
「今?」
「ああ。いいじゃん俺、誕生日だし」
ははっと小さく笑う祐兎。
あたしがびっくりして顔をあげると、
祐兎は白い息を吐いた。
「笑わない?」
「ああ」
「絶対?」
「ああ」
「あたし、下手くそだよ?
音がないと歌えないよ?」
「知ってる」
「祐兎!」
「はは」
ああ。
いつものやりとりだ。
決してロマンチックじゃないけど。
映画やドラマのようにはいかないけれど、
あたしにとってその何気ないやり取りは
すごく大切なものだった。
ゆっくりと息を吸って、目を閉じた。
そして―