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恋してキスして抱きしめて

第15章 あたしだけを、見て

“ 学生時代に得た知識と経験は、全て役に立たないと思え。

自信や主張なんかは、早いうちに捨てた方がいい ”



………メディアでも放映・取り上げられる程の、華やかな入社式の後に


本社に配属された新入社員の俺達が、上司に言われた最初の言葉だ。


有名大学を卒業し、狭き門であるトップ企業の内定を勝ち取った、優秀な同期達も


6年めを迎えた今、その数は半分以下に減っている。




「……11時か……」



地下鉄ホームのベンチに座り、電光掲示板を見上げた。


BARを出たのが早かったから、終電までまだ時間はある。


酔いを醒ます為に、俺はまた1本電車を見送った。




………朱莉と別れた理由は


何も特別な決定打があったわけじゃない。



社会に出たことのない、腐るほど時間がある学生時代を共にしたカップルが


仕事に追われて逢う機会が減り、それぞれの環境で新しい出逢いを繰り返していれば


自然と距離が生まれ、お互いの溝を埋める事ができずに消滅してしまう


………なんの変哲もない、よくある別れのパターンだ。

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